【東大前切りつけ】鑑定留置とは?精神が狂っていれば無罪?刑事責任能力の謎を徹底解説!
- Renta
- 5 日前
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「鑑定留置」って一体何?
2025年5月、東京大学の学生が刃物で襲われたという衝撃的なニュース。逮捕された容疑者の口から語られたのは、「東大を目指す教育熱心な親たちに、度が過ぎると私のように犯罪を犯すと示したかった」という、にわかには理解しがたい動機でした。そして、その後の報道で目にした「鑑定留置」**という言葉。一体これは何なのか、多くの国民が疑問を抱き、密かに検索トレンドとなっています。
「容疑者の心の状態が事件の行方を左右するってこと?」「もし“責任能力なし”と判断されたら、どうなるの?」この記事では、今まさに注目されている**『鑑定留置とは』何か、その目的や手続き、そして私たちの社会の安全と個人の権利にも関わる「刑事責任能力」**という、少し難しいけれど非常に重要なテーマについて、東大切り付け事件の報道をきっかけに、誰にでも分かりやすく徹底解説します!ニュースの奥にある「なぜ?」を知れば、事件の見え方が変わってくるかもしれません。

目次
東大前切りつけ事件…何が起きてなぜ「鑑定」?
まず、今回の議論のきっかけとなった、東大前駅での切り付け事件の概要を振り返りましょう。
事件のあらまし:白昼の駅で起きた悪夢
2025年5月22日、東京メトロ南北線の東大前駅で、恐ろしい事件が発生しました。東京大学に通う20歳の男子学生が、ホームで背後から突然、無職の戸田佳孝容疑者(43歳)に包丁で切り付けられたのです。男子学生は電車内に逃げ込みましたが、容疑者は追いかけてさらに襲いかかったとされています。この襲撃で、男子学生は首や額などに全治10日間の切り傷を負い、容疑者を取り押さえようとした乗客の男性も手の指に怪我をしました。戸田容疑者は、その場で殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されました。
逮捕された容疑者とその不可解な「動機」
逮捕後の取り調べに対し、戸田容疑者は「東大を目指す教育熱心な親たちに、度が過ぎると(子供が)私のように犯罪を犯すことになると示したかった」「自分の人生がうまくいかないのは、周囲のせいだと思っていた」などと、理解しがたい特異な供述をしていると報じられています。
なぜ「鑑定」が必要になったのか?心の状態が焦点に
こうした不可解な動機や事件の無差別性などから、捜査当局(検察官)は、**「犯行時、容疑者は正常な判断ができる精神状態だったのか?」という点に強い疑問を抱いたと考えられます。つまり、「刑事責任能力」の有無が、事件の大きな争点として浮上してきたのです。そのため、専門家による精神状態の評価、すなわち「精神鑑定」**が必要と判断され、そのための手続きが取られることになりました。
『鑑定留置』AtoZ~いつ、どこで、誰が、何をする?
では、正式な法的手続きである『鑑定留置』について、もっと詳しく見ていきましょう。
どんな時に行われる?(法的根拠と目的)
鑑定留置の主な目的は、犯行時における被疑者・被告人の「刑事責任能力」(後で詳しく説明します)について、専門家の意見を聞くことです。 法律(刑事訴訟法)では、裁判所が「鑑定のために必要があるとき」に、鑑定留置を命じることができる、と定められています。特に、起訴される前の容疑者については、検察官が「鑑定のためにこの人の留置が必要だ」と判断し、裁判官に許可を求める形で行われます。

誰がどうやって決める?手続きの流れをチェック!
検察官の「お願いします!」(請求): 検察官が、事件の状況、容疑者の言動、供述内容、これまでの病歴(特に精神科通院歴など)などから、「この容疑者の責任能力を、専門家にしっかり調べてもらう必要があるな」と判断した場合、裁判官に対して「鑑定留置をお願いします」と請求します。その際には、なぜ鑑定留置が必要なのかを説明する資料(疎明資料)も一緒に提出します。
裁判官の「よし、許可する!」(許可と鑑定留置状の発付): 検察官からの請求と資料を見た裁判官が、「確かに、これは専門家の鑑定のために留置が必要だ」と判断した場合、**「鑑定留置状」**という正式な令状を発行します。この令状には、容疑者の名前、罪名、留置される場所や期間などが書かれています。
期間はどれくらい?長いと半年も!?
鑑定留置の期間は、事件の複雑さや鑑定の難しさによって変わりますが、一般的には2ヶ月から3ヶ月程度とされることが多いです。東大前切り付け事件の戸田容疑者も、報道によれば2ヶ月間の鑑定留置が認められました。場合によっては、もっと長くなることもあり、過去には6ヶ月に及んだケースも報告されています。
どこに留め置かれる?病院?
容疑者は鑑定留置状で指定された**専門の病院(多くは精神科病院)**や、鑑定を行う医師が診察しやすいように、拘置所や警察署の留置施設に留め置かれます。病院に留置される場合は、逃げ出したりしないように、警察官が見守りにつくこともあります。
鑑定留置中は何をする?取り調べはストップ?
もし容疑者がそれまで警察署などで勾留されていた場合、鑑定留置の期間中は、その勾留は一時的にストップされます。そして、原則として、警察や検察による事件の取り調べも行われません。この期間は、あくまで鑑定医による専門的な診察や検査が中心となります。
実は2種類?「簡易鑑定」と「本鑑定(正式鑑定)」
簡易鑑定:本格的な鑑定留置の前に、もっと短期間(通常1日程度)で行われる、予備的な精神鑑定のことです。検察庁や病院などで、医師が容疑者と面談し、簡単な意見を述べます。この時点では、まだ鑑定留置状は出ていません。
本鑑定(正式鑑定): こちらが、鑑定留置を伴って行われる、より本格的で詳細な精神鑑定です。精神科医が、数ヶ月にわたって容疑者を継続的に観察し、何度も面談したり、様々な心理テストや医学的検査を行ったり、家族や関係者から話を聞いたりして、多角的に精神状態を評価します。
【豆知識】裁判員裁判と鑑定留置
最近では、特に裁判員裁判の対象となるような重大事件では、起訴前に鑑定留置が行われるケースが増えていると言われています。これは、法律の専門家ではない裁判員の方々が、責任能力という難しい問題を判断する際に、専門家の詳細な鑑定結果が非常に重要な参考資料となるためです。
事件の核心「刑事責任能力」とは?心神喪失なら無罪?刑法39条の壁
鑑定留置の大きな目的である「刑事責任能力」の判断。これは、事件の判決を左右する、非常に重要なポイントです。
「責任能力がないと罰せられない」?(刑法39条の基本ルール)
日本の刑法第39条、そこにはこう書かれています。
第1項:「心神喪失者の行為は、罰しない。」
第2項:「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」
つまり、犯行時に「責任能力」がなかったり、著しく低かったりした場合は、罰せられなかったり、刑が軽くなったりする、というルールです。では、この「責任能力」とは何でしょうか? 一般的には、
良いことと悪いことの区別がつく能力(事理弁識能力)
その区別に従って、自分の行動をコントロールする能力(行動制御能力) この二つが揃っている状態を指します。
「心神喪失(しんしんそうしつ)」とは?
(判断能力が完全にない状態 → 無罪)刑法39条1項の「心神喪失」とは、精神の障害(例えば、重い精神病など)によって、上記の**「良いことと悪いことの区別がつく能力」か「自分の行動をコントロールする能力」のどちらか、あるいは両方が、犯行時に完全に失われていた状態**を指します。もし裁判で「犯行時は心神喪失状態だった」と判断されれば、その行為は罰せられず、無罪となります。
「心神耗弱(しんしんこうじゃく)」とは?
(判断能力が著しく低い状態 → 刑が軽くなる)刑法39条2項の「心神耗弱」とは、同じく精神の障害によって、これらの能力が完全に失われてはいないものの、著しく弱っていた、低下していた状態を指します。もし「犯行時は心神耗弱状態だった」と判断されれば、有罪にはなりますが、法律によって必ず刑が減軽されなければなりません。
最終的に誰が判断する?精神鑑定の結果は絶対じゃない!
ここで非常に重要なのは、精神鑑定を行った医師の意見(鑑定書)は、あくまで専門家としての医学的な判断だということです。最終的に、「心神喪失」や「心神耗弱」といった**法律上の評価を下し、責任能力の有無を判断するのは、裁判所(裁判官、そして裁判員裁判の場合は裁判員も含む)**なのです。 裁判所は、鑑定医の意見を非常に重要な証拠として尊重しますが、それだけでなく、犯行の状況、被告人のそれまでの言動、動機、その他のあらゆる証拠を総合的に見て、裁判長の裁量も加わり、最終的な判断を下します。 特に、「診断された精神疾患」と「犯行」との間に、**直接的な関係(因果関係)**がなければ、責任能力が認められることもあります。
例えば、うつ病と診断されていても、計画的に金品を盗んだ場合などは、その窃盗行為がうつ病の症状と直接結びつかないと判断されれば、完全な責任能力が認められる可能性があるのです。(※ちなみに、心神喪失で不起訴や無罪になるケースは、実は全体の0.3%程度と、極めて稀です。それだけ責任能力が否定されるハードルは高いのです。)
もし「心神喪失」で無罪になったらその後どうなる?
(医療観察法という制度)「心神喪失で無罪になったら、危険な人がそのまま社会に戻ってきちゃうの?」と不安に思うかもしれませんね。でも、大丈夫です。特に、殺人や放火、強制性交といった重大な犯罪を心神喪失状態で犯した人については、**「医療観察法」**という法律に基づいて、再犯を防ぎ、社会復帰を助けるための専門的な医療と観察の措置が取られます。 検察官が地方裁判所に申し立て、裁判官と精神科医からなる合議体が、その人に入院治療が必要か、通院治療で大丈夫かなどを判断し、適切な処遇を決定します。これは罰ではなく、治療と社会復帰支援を目的としつつ、社会の安全も守ろうとする大切な制度です。※とはいえ、被害者の家族や遺族を思うと、おかしな条文でもあるかもしれません...。
【刑法39条:心神喪失と心神耗弱の違い】
特徴 | 心神喪失 (刑法39条1項) | 心神耗弱 (刑法39条2項) |
判断/制御能力 | 完全に欠如 | 著しく減退 |
法的結果 | 罰しない(無罪または不起訴) | 刑を減軽する(必ず軽くなる) |
重大犯罪の場合の事後措置 | 医療観察法による治療・観察の対象になることがある | 通常の刑罰(ただし減軽)。医療観察法の直接対象ではない。 |

「心の闇」をどう見抜く?精神鑑定の実際と「嘘(詐病)」
刑事責任能力の判断に大きな影響を与える「精神鑑定」。そこでは、一体どんなことが行われているのでしょうか?そして、もし容疑者が「精神病のフリ(詐病)」をしていたら、専門家は見抜けるのでしょうか?
精神鑑定って具体的に何をするの?(容疑者の心の中を覗く作業)
精神鑑定は、数ヶ月にわたる鑑定留置の期間中、精神科医などの専門家が、様々な角度から容疑者・被告人の精神状態を慎重に評価する作業です。
何度もじっくり面接:医師が直接会い、生育歴、生活歴、事件に至るまでの経緯、犯行時の気持ちや考え、現在の心境などを、繰り返し丁寧に聞き取ります。
様々な心理テスト:性格検査(MMPIなど)、知能検査、認知機能検査など、客観的な心理テストを実施し、精神状態や思考のパターンを分析します。
日々の行動を観察:鑑定留置中の施設での言動、他の人との関わり方、生活態度などを、医師や看護師、施設の職員などが継続的に観察します。
あらゆる情報を収集:警察の捜査資料、目撃者の証言、過去のカルテ(特に精神科の通院・入院歴)、学校の成績証明書、職場の記録、家族や知人からの話など、本人以外の客観的な情報も幅広く集めて分析します。 これらの情報を総合的に分析し、犯行時の精神状態、もし精神疾患があったならその種類や重さ、そしてそれが「良いことと悪いことの区別がつく能力」や「自分の行動をコントロールする能力」にどんな影響を与えたのかを、専門家として評価し、**「鑑定書」**という詳しい報告書にまとめます。
「嘘(詐病:さびょう)」は見抜ける?精神病のフリとの戦い
刑事事件の容疑者や被告人が、刑罰を逃れたり、軽くしたりする目的で、**わざと精神病の症状を装ったり、大げさに訴えたりする「詐病」**の可能性は、精神鑑定において常に考えなければならない重要な問題です。本当に心の病気で苦しんでいる人と、巧みに症状を演じている人を見分けるのは、専門家にとっても非常に難しい場合があります。では、専門家はどうやって「嘘」を見抜くのか。
(詐病検出のテクニック) 精神鑑定のプロは、詐病の可能性を評価するために、様々なテクニックを駆使します。
矛盾点を探る:本人の話(症状の説明、事件の記憶など)に、時間と共に矛盾が出てこないか、客観的な事実(捜査資料など)と食い違う点はないか、などを厳しくチェックします。
不自然な言動に注目:あまりにも典型的すぎる精神病の症状を訴えたり(教科書通りの演技?)、逆に、実際の精神疾患ではあまり見られない奇妙な症状を訴えたり、症状の程度が状況によって不自然に変動したりしないか、などを注意深く観察します。
心理テストの「嘘発見器」機能:一部の心理テスト(MMPIなど)には、回答者が自分を良く見せようとしたり、逆に悪く見せようとしたりする「嘘」の傾向を検出するための特別な仕掛け(妥当性尺度)が組み込まれています。
認知機能テストの活用:例えば、「記憶力がないフリ」をしているかどうかを調べるための特殊なテスト(PVTs: Performance Validity Tests)などもあります。
長期間の「鑑定留置」が「本当の姿」をあぶり出す?
数ヶ月にも及ぶ鑑定留置の期間は、専門家が容疑者をじっくりと継続的に観察できるという点で、詐病を見抜く上で非常に重要です。短期間の面接だけでは巧みに演技し通せる人も、長期間、専門家の厳しい監視の下で、一貫して症状を偽り続けるのは、一般的に非常に難しいと考えられています。ふとした瞬間に「素」が出てしまったり、矛盾した言動が見られたりする可能性が高まるからです。
「精神病のフリをすれば、簡単に罪を逃れられる」というのは、大きな誤解です。専門家たちは、科学的な知見と豊富な経験に基づいて、真実を見抜こうと真剣に取り組んでいるのです。つまり、専門家を騙すためには、本当に心身を喪失させ、完全に異常者になり切らねばなりません。逆に言えば、ネジを全て外してぶっ飛べば、心神喪失と判断される可能性がある、かもしれません。

東大前切り付け事件と「鑑定留置」から学ぶべきこと
東大前駅での切り付け事件。その衝撃的な内容と、容疑者の不可解な動機は、私たちに多くの問いを投げかけました。そして、その後の「鑑定留置」という手続きは、日本の刑事司法制度が、個人の「心の状態」という非常にデリケートで複雑な問題に、いかに向き合おうとしているかを示す一端と言えるでしょう。
事件と鑑定留置の繋がり: 今回の事件で、容疑者の特異な供述などから責任能力に疑問符が付き鑑定留置が実施されたことは、日本の司法が、重大事件や犯行の背景に精神的な問題が疑われる場合に、専門家の意見を求め、より慎重な判断を下そうとするメカニズムを持っていることを示しています。この鑑定の結果が、今後の捜査や裁判の行方を大きく左右することは間違いありません。
「法」と「精神医学」の難しい連携:責任能力の判断は、法律の専門家(検察官や弁護士、裁判官)と、精神医学の専門家(精神科医)が、それぞれの専門知識を持ち寄り、緊密に連携しながら進められる、非常に高度で難しい作業です。
社会の安全と個人の権利のバランス:刑事司法制度は、犯罪から社会を守り、秩序を維持するという大切な役割を担っています。しかし同時に、たとえ罪を犯したとされる人であっても、その人が抱える精神的な問題があるのであれば、それを考慮し、公正な手続きと適切な処遇を保障することも、人権尊重の観点から極めて重要とされています。鑑定留置や、刑法39条、医療観察法といった一連の制度は、この**「社会の安全」と「個人の権利・福祉」という、時に相反する二つの要請のバランス**を、どうにか取ろうとする、犯罪者に優しい国、あるいは人間の知恵の結晶とも言えるのかもしれません。
東大前切り付け事件のような悲劇を二度と繰り返さないために、私たちは何ができるでしょうか?それは、事件そのものへの怒りや悲しみだけでなく、その背景にあるかもしれない個人の心の闇や、社会の歪みにも目を向けること。そして、「鑑定留置」や「刑事責任能力」といった、一見難解に見える法制度についても、正しい知識を持ち、関心を持ち続けることにもあるはずです。それが、より安全でより公正な社会を築くための、私たち一人ひとりにできる、大切な一歩となるはずです。
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