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合法な大阪カジノと違法なオンラインカジノ〜日本の矛盾した賭博法

  • 執筆者の写真: Renta
    Renta
  • 2 日前
  • 読了時間: 13分

日本社会において、賭博に関する法律とその運用には、国民の間で根強く疑問や不満の声が上がっている。特に、2023年に大阪でのカジノ建設が政府によって承認された一方で、オンラインカジノが依然として違法であり、厳しく取り締まられて続けている現状は、矛盾しているとの指摘が強い。本稿では、この法的矛盾を深く掘り下げ、その背景にある要因、倫理的側面、そして社会への影響について分析する。


合法な大阪カジノと違法なオンラインカジノ〜日本の矛盾した賭博法

目次


  1. 日本の賭博に関する法律状況

日本の刑法第23章において、ほとんどの賭博は禁止されている。賭博行為を行った者には五十万円以下の罰金又は科料が科せられ、常習賭博者は懲役刑(三年以下)に処される可能性もある。この全国的な賭博禁止の原則は、1907年に確立された 。   


しかし、この厳格な禁止原則にはいくつかの例外が存在する。地方自治体や政府関連機関によって管理・運営される公営ギャンブル、すなわち競馬や競輪、オートレース、競艇は、特別な法律によって合法とされている 。また、宝くじ(宝くじ法)やスポーツ振興くじ(toto/BIG)も、政府が収入を増やし、娯楽を提供する目的で特別に認められている。これらの例外は、政府や地方自治体の財源確保という明確な名目目的を持っている。   


さらに、日本の賭博法体系において特異な位置を占めるのがパチンコである。パチンコは、歴史的、経済的、文化的な理由から、刑法上の賭博罪の例外として扱われ、法的なグレーゾーンで運営されている。パチンコ店は直接現金を客に提供することは禁じられているが、景品として提供される特殊景品を店外の交換所で現金に換えるという仕組みによって、事実上の賭博行為が可能になっている。パチンコは日本において巨大な産業であり、年間数兆円もの経済効果を生み出していると推計されている。過去には暴力団との関係も指摘されていたが、警察の取り締まりや法改正によってその影響はいくらか減少した。


日本の賭博の歴史は長く、貴族の間で双六、賽子、カードなどのゲームを用いた賭博が非常に人気を博し、早くも西暦689年には賭博を違法とする最初の法律が制定された。その後、賭博は合法化と禁止を繰り返してきた歴史があり、時には武士や貴族などの特定の階級に限定されることもあった。1907年に近代的な包括的賭博禁止法が制定され、今日に至るまでその原則は維持されているが、注目すべき例外も存在する。このような歴史的背景は、日本の賭博に対する複雑な文化的態度を理解する上で重要であり、パチンコのような法的抜け穴の存在や、現在議論されているカジノ合法化の動きにも影響を与えていると考えられる。特に、パチンコの経済規模の大きさはその曖昧な法的地位が長年維持されてきた大きな理由の一つと考えられる。


パチンコをする武士と貴族
一緒にパチンコをする武士と貴族

  1. 大阪における統合型リゾート(IR)の合法化

日本の長年にわたる賭博禁止の原則に大きな変化をもたらしたのが、2016年の統合型リゾート(IR)推進法と、2018年のIR実施法の成立である。この法律は、特定地域におけるカジノを含む統合型リゾートの建設を合法化するもので、日本における賭博に対する姿勢の大きな転換点となった。IR法制定の主な目的は、観光客の誘致と経済の活性化であるとされ、当初は全国で最大3つのIRを設立する計画であった。


誘致合戦の結果、大阪が最初のIR建設地に選ばれた。大阪IR株式会社(Osaka IR KK)を中心とするコンソーシアムが事業者として選定され、このコンソーシアムはMGMリゾーツ・インターナショナルとオリックス株式会社が主導している。

大阪IRプロジェクトの主な経緯は以下の通りである。2002年から2015年にかけて、IR構想に関する政策研究や推進の動きが見られた➡︎2016年にはIR推進法が成立し、2018年にはIR実施法が成立した➡︎2019年には大阪府・市が事業者公募(RFP)を開始し 、2020年2月にはMGMリゾーツが事業者として選定された➡︎2024年10月には用地が譲渡され、建設工事が開始された。開業は2030年秋頃に予定されている。


大阪IRはカジノの他に、ホテル、ショッピングモール、コンベンションセンター、エンターテイメント施設などを含む大規模な複合施設となる予定である 。投資額は約1兆2700億円から1兆6000億円に達すると見込まれており 、経済効果や観光客増加への期待が高まっている。


ただし、IRにはいくつかの規制も設けられている。日本居住者のカジノ利用は、週3回または月10回までに制限され、入場料として6000円が課される。また、IR事業者を監督・管理するためにカジノ管理委員会が設置される。このように、大阪におけるIRは、観光振興という目的のために、厳格な規制の下で例外的に認められた賭博行為と言える。カジノ合法化の議論は長年にわたり、国民の間でも賛否両論(批判が圧倒的多数)があった。経済効果への期待がある一方で、ギャンブル依存症や治安悪化(特にマネーロンダリング等)への懸念も根強く、政府は慎重な姿勢を示しながらも経済効果あるいは既得権益を優先した形となっている。


合法な大阪カジノと違法なオンラインカジノを象徴する画像

  1. オンラインカジノの厳格な禁止

一方で対照的に、日本国内に居住する者がオンラインカジノを利用することは、海外で合法的に運営されているサイトであっても、原則例外なく違法である。オンラインカジノの利用者は、罰金が科せられる可能性があり、常習的な賭博行為とみなされた場合は懲役刑に処されることもあるほどだ。

政府も警察も、違法なオンライン賭博を取り締まるための努力を強化しており、運営者や決済代行業者に対する捜査や逮捕、違法サイトの監視なども行っている。法執行の強化、オンラインカジノ利用の違法性に関する啓発活動、違法サイトへのアクセスを遮断するための対策(広告の削除やフィルタリング技術の活用など)すら計画している。


しかし、このような厳格な禁止にもかかわらず、多くの日本居住者が海外のオンラインカジノサイトに容易にアクセスしているのが現状である。利用者は増加傾向にあり、賭け金の総額も巨額に上ると一部では推計されている。中には、オンラインカジノの利用が違法であることを認識していない利用者も少なくない。


オンラインカジノの合法化に反対する主な理由として、ギャンブル依存症とその社会的なコストへの懸念が建前として挙げられる。また、オンラインギャンブルは規制や管理が難しく 、資金洗浄などの犯罪行為に利用される可能性もある(だがこれは大阪カジノでも同様のこと)。一方で、オンラインカジノの禁止が必ずしもオンラインギャンブルを抑止する効果を発揮しているとは言えない現状を踏まえ、合法化によって税収を確保できる可能性や 、規制された環境下でより安全で透明なギャンブル環境を提供できる可能性も指摘されている。※要は倫理やモラル、安全性よりも、国にとって利益になるかならないかが問題。


  1. 法的矛盾とその正当性の分析

大阪でのIRにおけるカジノ合法化と、オンラインカジノの厳格な禁止という現状は、一見すると明らかに矛盾しているように見える。政府は、IR型カジノを合法化する主な理由として、経済の活性化と外国人観光客の誘致を挙げている。また、地域経済の振興、税収の増加、アジアの他のカジノ拠点(マカオ、シンガポール)との競争もその理由として挙げられている。

他方、オンラインカジノを禁止する理由としては、先述した通りギャンブル依存症とその社会的なコストへの懸念、オンラインギャンブルの規制と管理の難しさ、資金洗浄などの犯罪行為への利用の可能性などが挙げられる。   


しかし、これらの正当性には大いに疑問が残る。ギャンブル依存症や社会的な害のリスクは、大阪のような大都市に大規模な陸上カジノを建設する場合と、オンラインカジノの場合で、本質的にオンラインカジノの方が大きいと言えるのだろうか。特に、日本国内で広く普及しているパチンコの存在も考慮すると、この疑問はさらに深まる。

また、オンラインギャンブルの規制の難しさという議論も、他の多くの国々がオンラインギャンブルの規制に成功している現状を考慮すると、必ずしも絶対的なものではない。オンラインであろうがオフラインであろうが、依存する人間が続出することは変わりない。陸上カジノによる観光客収入への期待は理解できるが、オンラインギャンブルを規制することで得られる潜在的な経済効果や税収を見過ごしている可能性はないだろうか。 


政府が陸上カジノ合法化の主な推進力として観光を重視していることは、カジノギャンブルを国内の娯楽というよりも、外国人向けの観光資源として位置づける戦略的な決定を示唆している。これは、社会的な反対を最小限に抑えるための手段である可能性がある一方、オンラインカジノの規制の難しさという議論は、特に技術の進歩や他国の規制枠組みの存在を考慮すると、乗り越えられない障害というよりも、都合の良い正当化である可能性も否定できない。


  1. 既得権益とカジノ合法化の政治経済

大阪IRの主な投資家および運営者は、MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックス株式会社である。他にも、パナソニック、関西電力、西日本旅客鉄道などの地元企業がパートナーとして参画している。これらの企業にとって、カジノやその他のリゾート施設からの巨額の収益、関西地域の観光と経済活動の活発化、そして潜在的に収益性の高い新たな市場における強固な地位の確立は、大きなメリットとなる。


自由民主党(LDP)をはじめとする様々な団体によるカジノ合法化に向けた長年の議論とロビー活動、そして安倍晋三元首相(当時)のIR計画への支持は、これらの既得権益が、オンラインカジノを禁止したまま陸上カジノを合法化するという政府の決定に影響を与えている可能性を示唆している。同様の構図は、パチンコ業界とその官僚との癒着、そして賭博規制への潜在的な影響にも見られる。


このように、特定の業界や企業が、自らの利益のために政府の政策決定に影響を与える可能性は否定できない。MGMやオリックスのような企業にとっての巨額の投資と潜在的な収益  は、大阪カジノ合法化の背後にある強力な経済的インセンティブを示唆しており、これは利用者の抱く既得権益が政策を動かしているという疑念と一致する。さらに、公共団体がカジノを運営することを明示的に禁止し 、民間部門の関与を重視している点は、既得権益が重要な役割を果たしているという考えを裏付けているのではないだろうか?


カジノで富を得る既得権益者
カジノで富を得る既得権益者

  1. 社会的影響と公序良俗

私は、法的矛盾によって引き起こされる国民の混乱、モラルの低下、そして不公平感について懸念を表す。陸上カジノの潜在的な悪影響として、制限はあるものの、地域住民のギャンブル依存症の増加リスク、犯罪や社会問題の増加の可能性(ほぼ確実に増える)、家族や地域社会への悪影響などが挙げられる。   

違法なオンラインギャンブルは、規制されていないプラットフォームにおける利用者へのリスク、経済的損失や負債の可能性、犯罪行為との関連(資金洗浄、違法雇用)、そしてオンラインギャンブル依存症の深刻化など、様々な問題を引き起こしている。


政府が一方の形態のギャンブル(陸上カジノ)を推進しながら、もう一方の形態(オンラインカジノ)を厳しく禁止することは、倫理的な観点からも疑問を投げかける。特に、どちらもやっていることは全く同一の同じギャンブル(ルーレットやポーカー、バカラなど)である。どちらの形態も依存症や潜在的な害のリスクを伴う場合、この政府の姿勢は、ギャンブルと道徳に関する国民へのメッセージとしてどのように解釈されるべきだろうか。

大阪カジノの経済的利益は、潜在的な社会的コストを上回るのだろうか。政府が陸上カジノの経済的利益を重視する一方で 、オンラインカジノを禁止する理由として社会的コストを挙げていることは、経済的利益を潜在的な社会的害よりも優先している、あるいは少なくともそれぞれのギャンブル形態における利益と害のバランスを異なる評価をしている可能性を示唆している。


  1. 諸外国における賭博規制の状況

諸外国におけるオフラインカジノとオンラインカジノの規制状況は様々である。ヨーロッパの一部やカナダなど、オンラインギャンブルを合法化し、規制している国も存在する。これらの国々では、ライセンス制度、課税、消費者保護対策など、様々な規制アプローチが採用されている。他方、オンラインギャンブルに対してより厳しい規制や全面的な禁止措置を講じている国もある。


これらの国々の成功例や課題から、日本は自国の政策を再評価する上で教訓を得られる可能性も。例えば、規制されたオンライン市場における税収増加の可能性や、依存症対策、未成年者のギャンブル防止のための強固な措置の必要性などが挙げられる。


陸上カジノ規制

オンラインカジノ規制

イギリス

合法、規制あり

合法、規制あり

ドイツ

合法、州ごとの規制

一部合法(オンラインカジノ、ポーカー)、厳格な規制

フランス

合法、規制あり

スポーツベッティング、ポーカーは合法、オンラインカジノは禁止

イタリア

合法、規制あり

合法、規制あり

マルタ

合法、厳格な規制

合法、厳格な規制、主要なオンラインゲーミングハブ

カナダ

州ごとの規制

州ごとの規制

オーストラリア

合法、一部規制あり

国内事業者によるオンラインカジノは禁止、スポーツベッティングは許可

ニュージーランド

制限あり

国内でのオンラインカジノ運営は制限、海外サイトの利用は許可

アメリカ

州ごとの規制

州ごとの規制


目隠しを取り、札束を持つ女神テミス
目隠しを取り、札束を持つ女神テミス  

  1. 結論:大阪カジノとオンラインカジノ

本稿では、日本における大阪での陸上カジノ合法化とオンラインカジノの厳格な禁止という法的矛盾について分析してきた。政府は、大阪カジノの合法化を経済効果と観光客誘致の手段と位置づけている一方、オンラインカジノについてはギャンブル依存症や規制の難しさを理由(建前)に禁止を維持している。

しかし、この二つの政策の間には、その正当性や倫理的観点から疑問が残る。また、この背景には、特定の企業や団体の既得権益が存在する可能性も指摘されている。利用者の強い不承認と、違法なオンラインギャンブル市場が活況を呈している現状は、政府がギャンブル政策についてよりオープンで誠実な対話を行い、現在の二分法に代わるアプローチを検討する必要性があるだろう。長年法的グレーゾーンに置かれてきたパチンコの存在は、政府が一般的な禁止にもかかわらず、特定の形態のギャンブルを容認してきた歴史を示し、この前例は、もし政治的な意志があれば、オンラインカジノ政策の現実的な再評価が可能であることを示唆している。


今後の提言として、政府はより包括的で一貫性のあるギャンブル規制のアプローチを検討すべきである。これには、オンラインギャンブルの現状を踏まえ、国際的なベストプラクティスを参考にしながら、オンラインカジノ規制の潜在的な利点とリスクに関するさらなる研究・有意義な実行を行うことが含まれる。また、ギャンブル政策の背後にある動機、特に既得権益の影響については、透明性を高め、国民的な議論を促す必要がある。さらに、ギャンブルの形態にかかわらず、ギャンブル依存症の予防と治療のための対策を強化することも不可欠である。日本の賭博に関する法律とその周辺の議論は複雑であり、今後もその動向を注視していく。


国が示すこの矛盾した法律は、この世界の『正義』がいかに儚く、都合よく、権利者のためだけに改変可能であることを裏付ける。この世界の正義は"善"ではなく、ただの"都合"で出来ている。

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