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北朝鮮ミサイル発射の背景や目的・米朝対立から日本への脅威

  • 執筆者の写真: VII
    VII
  • 6 日前
  • 読了時間: 10分

東京2025年5月8日 — 令和の時代になっても、北朝鮮によるミサイル発射は止まる気配がない。2023年には北朝鮮が5発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級ミサイル発射や「衛星打ち上げ」を名目とする発射実験を含め、弾道ミサイルの発射を繰り返し強行し、日本政府はそれら一連の行動を「日本の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威」であり「地域および国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦」であるとして強く非難したmofa.go.jp

2024年に入ってからも北朝鮮は新型の固体燃料式中距離弾道ミサイルの発射実験を行い、極超音速で滑空・機動する誘導弾頭や新開発の高出力固体燃料エンジンの信頼性を検証したと伝えられているjapantimes.co.jp。孤立した独裁国家である北朝鮮はなぜ令和の現在に至るまでこのような挑発的なミサイル発射を続けるのか。その背景や目的、地政学的な意図とは何か。そして現在の北朝鮮の行動は日本にとってどのような脅威となり得るのか。本稿では、最新動向とともに米国との対立構造の現状と歴史的経緯を分析し、独裁体制ゆえの国家行動の盲点や非合理性、人類史における繰り返される過ちという観点も交えつつ、冷静に考察する。


北朝鮮ミサイル発射の背景と目的

目次


  1. 北朝鮮ミサイル発射の背景と目的

北朝鮮が度重なるミサイル発射を行う背景には、大きく分けて軍事的・政治的な目的が存在すると考えられる。軍事面では、自国の体制維持と安全保障のために核兵器と運搬手段である弾道ミサイルの開発・配備を最優先している。北朝鮮は2003年に核拡散防止条約(NPT)を脱退し、2006年に初の核実験を強行して以降、着実に核兵器とミサイルの能力を高度化させてきたnti.org。金正恩政権は2017年に「国家核戦力の完成」を宣言し、これにより米国本土に到達し得るICBMと核弾頭を保有したと主張している。

北朝鮮の国営メディアは、自国の最新ICBMを「世界最強の戦略ミサイル」と誇示し、それが「敵の侵略行為を抑え込む信頼できる核抑止力」になるのだと伝えているarmscontrol.org。つまり北朝鮮自身は、核ミサイル戦力の強化こそが外部からの攻撃を思い留まらせる抑止力であり、体制存続の保証だと位置付けている。


他方、政治・外交的な目的として、北朝鮮はミサイル発射を交渉戦術の一環として利用しているとも言われる。繰り返される挑発的な発射実験によって自国を「危険な国」だと印象付け、米国を譲歩や対話の場に引き出す狙いがあるとの指摘もあるpresident.jp。実際、北朝鮮は核・ミサイルの高度化によって米国や周辺国に圧力をかけ、経済制裁の緩和や体制保証を得ようとしていると分析されている。経済的に困窮し国内で慢性的な食糧難に苦しむ北朝鮮にとって、米国との交渉から経済支援や制裁解除を引き出すことは重要な目標であり、その手段としてミサイル発射という示威行為が用いられているのである。現に北朝鮮は日本海に向けた度重なるミサイル発射を通じ、「日本(=米国の同盟国)などいつでも攻撃できる」と誇示してみせることで米国に揺さぶりをかけている。このように、北朝鮮のミサイル発射行為は自衛のための抑止であると同時に、外交交渉を有利に進めるための威嚇手段という二面性を持っていると考えられる。


独裁国家と民主国家の対立

  1. アメリカとの対立構造:現状と歴史的経緯

北朝鮮のミサイル開発と核武装の背景には、長年にわたる米国との対立構造が横たわっている。朝鮮戦争(1950〜53年)が休戦となって以降も米朝間に正式な平和条約は結ばれず、朝鮮半島では南北が非武装地帯を挟んでにらみ合う冷戦構造が続いたmod.go.jpmod.go.jp。冷戦終結後、北朝鮮は自らの体制を守るため核兵器開発に傾斜し、1990年代から米国や国際社会との間で核開発を巡る緊張と交渉を繰り返してきた。1994年には米朝枠組み合意で一時核開発を凍結したものの、その後合意は破綻し、2006年についに核実験に踏み切った。以降、北朝鮮は2016年から2017年にかけてだけでも3回の核実験と40発に及ぶ弾道ミサイル発射を強行し、国連安全保障理事会の度重なる制裁決議と圧力にもかかわらず核・ミサイル開発を加速させてきた。


2010年代後半には米朝関係に一時的な対話ムードも生まれた。2018年6月の史上初の米朝首脳会談(シンガポール)では、金正恩委員長が朝鮮半島の非核化にコミットする意思を示し、核・ICBM実験のモラトリアム(凍結)を表明した。しかし、翌2019年2月の第2回首脳会談(ハノイ)は非核化措置と制裁解除の折り合いがつかず決裂し、合意なく終了している。このハノイ会談の決裂以降、北朝鮮は再び強硬路線へと舵を切った。金正恩氏は同年末の朝鮮労働党中央委員会総会で、米国による軍事演習継続など「敵視政策」が続く限り、一方的に自らが約束した核実験・ICBM発射モラトリアムに拘束される理由はなくなったと宣言し、米国の態度が変わらない限り「戦略兵器開発を続ける」と明言した。

さらに2021年1月の朝鮮労働党第8回大会では、金正恩氏が対外政策の最優先目標を「最大の主敵である米国を制圧し屈服させること」と位置づけ、「核戦争抑止力を一層強化し、最強の軍事力を育てる」と述べて核・ミサイル戦力増強の継続を公言した。


専門家の分析によれば、北朝鮮は2019年の米朝交渉失敗後に核戦力近代化の長期計画を立て、この数年で新型兵器の開発・実験を集中的に進めてきたとされる。実際、約3年の静かな準備期間を経た2022年以降、北朝鮮は次々と新型のミサイル発射に踏み切り、ICBM級の発射実験も再開している。現在の米朝対立は、単に両国間だけでなく地域的・国際的な構図と絡み合っている。アメリカ・日本・韓国は北朝鮮の脅威に対抗するため同盟協力を強化し、2023年には初の日米韓首脳会合で安全保障協力の深化が確認された。一方で北朝鮮は中国・ロシアに接近し、国連安保理では中露が北朝鮮追加制裁に反対して実質的な機能不全に陥っている。


2023年以降、ロシアのウクライナ戦争を契機に北朝鮮とロシアの関係は一段と緊密化し、2024年には北朝鮮がロシアとの「相互防衛条約」を批准する動きも報じられた。北朝鮮は武器をロシアに提供する見返りにエネルギー支援や国際舞台での擁護を得ている可能性が指摘されている。直近では、ロシアウクライナ戦争で初めて、北朝鮮が公に軍の派遣を認めたことも新しい。こうした大国間の思惑も相まって、北朝鮮の核・ミサイル問題を巡る対立構造は冷戦終結後の単極的なものから新たな多極的様相へと複雑化しつつある。


  1. 独裁体制の盲点?非合理な行動と歴史の教訓

北朝鮮のような個人独裁体制の下では、国家の意思決定が一人の最高指導者の判断に大きく左右される。そのため、一見すると合理性に欠けるような国家行動がとられる危険性が指摘される。

例えば、国民が飢えるほど経済が逼迫しているにもかかわらず巨額の資源を核・ミサイル開発に投入し続ける北朝鮮の姿は、外部から見れば極めて非合理的で盲目的な政策のように映るだろう。しかし、その一方で長年にわたり金日成・金正日・金正恩と三代続いた体制が崩壊せず存続してきた事実は、独裁者による決定がある程度「目的合理的」に機能してきたことも意味している。ある分析によれば、「個人独裁である以上、独裁者の一存で非合理な行動を取る可能性はあるが、もし体制維持の目的に照らして非合理な政策ばかり取っていれば政権は既に崩壊していたはずだ」と指摘されており、北朝鮮はこれまで「それなりに合理的、むしろ極めて合理的な政策」を選択してきたと見るべきだという指摘もあるほどだ。


確かに北朝鮮の挑発行為は、体制の生存と交渉上の利得という目的に照らせば、一貫した論理に基づいている面がある。しかし、独裁体制の盲点は指導者の判断が周囲のイエスマンによって補強され、外部の現実から乖離した方向に暴走しうる点にある。情報統制された環境では指導部が自らの軍事力を過信し、相手国の反応や国際社会の団結を読み違える危険性がある。歴史を振り返れば、独裁者が軍事的冒険に出て自国を破滅に導いた例は枚挙にいとまがない。

第二次世界大戦を引き起こした独裁国家(ナチス・ドイツや大日本帝国)は自らの軍事力と支配領域を過大評価し、最終的に壊滅的な敗北を喫した。1962年のキューバ危機では、強権指導者たちの瀬戸際戦術が核戦争寸前の危機を招いたが、人類は間一髪でこれを回避したに過ぎない。にもかかわらず、その後70年以上の間に世界各地でフィデル・カストロやポル・ポト、フセインやカダフィといった数多くの独裁者が新たに出現し、弾圧や侵略による悲劇が繰り返された。こうした歴史の教訓は、独裁体制下では指導者の意思がチェックされずに暴走するリスクが常につきまとうこと、そして短期的に見て指導者に「合理的」な行動であっても長期的・大局的には非合理極まりない過ちとなる可能性が高いことを物語っている。北朝鮮の核ミサイル開発も、同様に人類史の「繰り返される過ち」の一つになりかねない危うさを孕んでいると言えるだろう。



  1. 日本にとっての脅威とその可能性

北朝鮮の現在の行動は日本にとって深刻な安全保障上の脅威となりうる。その最たる理由は、北朝鮮が開発・保有する弾道ミサイルが日本全域を射程に収め、さらに核兵器で武装化されている可能性が高いためである。北朝鮮が発射する弾道ミサイルは通常「高角度(ロフテッド軌道)」で打ち上げられることが多いが、これはあえて高度を稼いで飛距離を抑え、周辺国上空を通過させないように配慮した軌道だとされる。


しかし一旦通常軌道で発射すれば、日本列島を飛び越えて太平洋に達することも可能である。実際、北朝鮮は2017年と2022年に、日本上空を通過する軌道で中長距離弾道ミサイルの発射を強行した。とりわけ2022年10月の発射では、ミサイルが5年ぶりに日本の頭上を飛び越え、約4,600kmもの飛距離に達したと分析されている。この時、日本政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)で住民に避難を呼びかけ、北海道では一時鉄道運行が停止するなど、国民生活にも直接影響が及んだ。日本上空を飛ぶミサイルが万が一にも途中で故障や分解を起こせば、破片や弾頭が日本国内に落下するリスクもあり、極めて危険であるといえる。

さらに、北朝鮮が開発中のICBMは米本土に届く能力を持つとされ、その射程は優に1万kmを超える。日本政府によれば、2022年11月に発射されたICBM級ミサイルは最大で15,000km程度飛翔し得る性能があると分析されている。これは裏を返せば、日本にとって北朝鮮の核ミサイルの脅威が現実のものになりつつあることを意味する。北朝鮮が核弾頭の小型化と大気圏再突入技術を既に確立しているかは断定できないものの、少なくとも日本や韓国、米領グアムなどに対しては確実に核攻撃能力を有していると考えるべきだろう。日本政府も「北朝鮮のこれら一連の行動は断じて容認できない」と繰り返し非難しており、前岸田首相は北朝鮮の度重なるミサイル発射に対し「我が国と地域の安全保障に対する前例のない重大かつ差し迫った脅威だ」と表明している。


このように北朝鮮の示威行動は、日本に米国の「核の傘」を再認識させるとともに、日本自身も迎撃ミサイル体制の強化や反撃能力の保有検討など、防衛政策の転換を迫るものとなっている。加えて、北朝鮮の行動による日本への脅威は、直接的なミサイル被害だけにとどまらない。繰り返される挑発は地域の緊張を高め、偶発的な軍事衝突のリスクを増大させる。

例えば北朝鮮と米韓との間で武力衝突が発生すれば、日本にある米軍基地や自衛隊施設が北朝鮮に狙われる可能性は否定できない。また、北朝鮮が核・ミサイル技術を第三国やテロ組織に拡散するリスクも日本にとって由々しい問題である(過去に北朝鮮がシリアに核技術を供与した疑いなども指摘されている)。このように現在の北朝鮮の振る舞いは、日本の安全保障に多層的な脅威をもたらしており、日本政府および国際社会は引き続き警戒を緩めることができない状況だ。


◆◇◇

冷静に状況を見れば、北朝鮮が実際に日本や米国に対して先制的に核ミサイル攻撃を仕掛ける可能性は高くないと考えられる。それは即座に自国の破滅を招く自殺行為であり、北朝鮮指導部もその点は理解しているとみられるからだ。しかし、「核を使うためではなく脅すために持つ」という核兵器の本質の通り、北朝鮮はその核ミサイルを背景にした威嚇で得られる利益を最大化しようと行動している。その過程で偶発的なエスカレーションや誤算が起これば、結果的に武力衝突に発展する危険もぬぐえない。北東アジアの平和と安定にとって、北朝鮮のミサイル発射に振り回される「瀬戸際外交」の悪循環から脱することが喫緊の課題である。過去の歴史が示す「繰り返される過ち」を二度と起こさぬよう、日本を含む関係各国は外交的解決策を模索しつつ、抑止力と危機管理体制を着実に整えていく必要があるだろう。

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