イランとイスラエルはなぜ戦うのか?宿敵対決の歴史と核の危機【2025年最新】
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2025年現在、イランとイスラエルの対立はついに「影の戦争」から公然たる軍事衝突へとエスカレートしました。この二国間の緊張はなぜこれほど深く、長期化しているのでしょうか?本記事では、なぜそもそもイランとイスラエル両国が敵対し闘うのか、その歴史的背景や主な出来事のタイムライン、互いの主張と国際社会での見られ方、そして米国の関与や核戦争への懸念について、一般の読者にも分かりやすく解説します。
欧米・中東・アジアのメディアで論じられる「イスラエル悪者」論の違いや、イラン体制の特徴(宗教イデオロギーや代理戦争の戦略)にも触れながら、冷静に両者の対立構造を俯瞰します。

目次

イランとイスラエルはなぜ敵対しているのか?
イランとイスラエルの対立は単なる領土争いではなく、イデオロギー・安全保障・宗教的信念の衝突です。両国間には直接の国境も領土紛争もありませんが、1979年のイラン・イスラム革命以降、イランはイスラエルの存在そのものを否定し、「反シオニズム(反イスラエル)」を外交イデオロギーの根幹に据えてきました。しかし革命直後、イランの最高指導者ホメイニー師はイスラエルを「イスラムの敵」と位置づけ、公式に国家承認を撤回しています。以降、イランの指導部は**「パレスチナの解放」**を掲げてイスラエルを非合法な「シオニスト政権」と呼び、しばしば「イスラエルは地図から消えるべきだ」といった過激なレトリックを用いてきました(reuters.com)。
こうした宗教的・革命的な使命感は、パレスチナ問題をイスラム世界の聖戦と位置づけ、世俗的な民族紛争だった中東問題を宗教色の強い「十字軍的対立」へと変質させたのですwilsoncenter.orgwilsoncenter.org。
一方のイスラエルにとって、1979年以降のイランは最大の安全保障上の脅威となりました。かつてパフラヴィー朝時代のイラン(イスラム革命前)はイスラエルと非公式ながら友好関係を築き、中東における戦略的同盟すら結んでいましたwilsoncenter.org。
ところが革命後に反イスラエルを掲げる新体制が誕生すると、状況は一変。イランは反米・反イスラエルの急先鋒となり、レバノンやパレスチナでイスラエルと戦う組織への支援を公言しました。イスラエルから見れば、イランは自国の滅亡すら公言する敵対国家であり、その核開発やミサイル配備は存亡に関わる問題と位置付けている訳です。特に2000年代以降、イランの核兵器取得の可能性はイスラエルにとって「絶対に防がねばならない一線」であり、軍事行動も辞さない構えを取る要因となっています。
要するに、イランとイスラエルの敵対は「体制の存立」をめぐる全面的な対立なのです。イラン側は「イスラムの正義」と「パレスチナ解放」の旗の下にイスラエル打倒を掲げ、イスラエル側は「国家の生存権」を守るためにイランの脅威をあらゆる手段で排除しようとしていると言えます。その結果、両国は長年にわたり直接戦争こそ避けていたものの、中東各地で代理戦争や秘密工作を繰り広げ、現在に至る緊張関係を形成するに至りました。

歴史的背景〜イスラエル建国からイラン革命と核問題
イスラエル建国と初期の関係(1948~1970年代)
第二次世界大戦後の1948年、ユダヤ人国家イスラエルが中東の地に建国されました。イスラエルを巡っては直後から周辺のアラブ諸国との戦争が勃発しましたが、当時イランを統治していたパフラヴィー朝(モハンマド・レザー・シャー)は親米・反共的な立場から、水面下でイスラエルと協調関係にありました。
実際、イランはイスラエルを公式には承認しなかったものの、敵視もせず経済・軍事面で協力する**「ペリフェリー同盟」**(反ソ・反アラブ急進主義での共通利益)を結んでいたと言われます。当時、中東ではイスラエルと非アラブ国(トルコやイランなど)との協調関係が見られ、イランとイスラエルも30年近く比較的良好な関係を保っていました。
1979年イラン・イスラム革命
事態が一変したのは、先述の通り1979年です。ホメイニー師を指導者とするイスラム革命がイランで起こり、親米世俗王政が倒れてシーア派イスラム法学者による神権体制が誕生しました。この革命はイランの国内体制を劇的に変えただけでなく、外交方針も反米・反イスラエルへと180度転換させるものでした。革命政権はイスラエルとの関係を直ちに断絶し、在イランのイスラエル大使館は「パレスチナ大使館」へと看板が掛け替えられました。
また革命指導部は、イスラエルを「イスラム教徒の聖地エルサレムを占領する不法なシオニスト国家」と断じ、反シオニズムをイラン外交の柱に据えます。
イランにとって、イスラエルへの敵対は革命の正統性そのものと位置づけられたのです。ホメイニー師の「イスラエルは中東の小悪魔(米国が大悪魔)」との呼称に象徴されるように、イランの新体制はイスラエルを宗教的・思想的な仇敵とみなしました。
他方、イスラエルにとってもこの革命は重大な転機でした。かつての有力な潜在的同盟国を失っただけでなく、自国の滅亡を公言する政権が中東最大級の国力を持つイランに誕生したためです。1979年以降、イスラエルはイランを軍事・安全保障上の最優先脅威と位置づけ始めます。1980年代にはイランと直接戦火を交えることは無かったものの、イスラエルはレバノン内戦など周辺紛争でイラン勢力との間接的な衝突を経験しました。
核開発と国際社会の懸念
2000年代に入り、イランの核開発疑惑が表面化すると、両国の対立はさらに深刻化しました。2002年にイランの秘密核施設(ウラン濃縮施設)の存在が明るみに出ると、イスラエルは「イランが核兵器を保有すれば自国の存亡が危うくなる」と強く主張し、国際社会に対し厳しい制裁と措置を求めました。イラン側は「核開発は平和利用目的」と否定しましたが、イスラエルや米欧は疑念を抱き続けました。
その結果、**2015年にはイラン核合意(JCPOA)**が結ばれ、イランが核開発を大幅制限する代わりに制裁解除する枠組みができました。しかしイスラエルはこの合意を「不十分」として当初から批判し、トランプ米政権下の2018年に米国が核合意を離脱すると喝采を送りました。合意崩壊後、イランは再びウラン濃縮を強化し始め、イスラエルは秘密工作による妨害をエスカレートさせます。
例えば、高度なサイバー攻撃Stuxnetによりイラン核施設の遠心分離機を破壊した事件(2010年)や、イランの核科学者に対する暗殺事件(2010~2020年代、ファフリザデ暗殺など)は、イスラエルの情報機関モサドによる犯行と広く疑われています。イスラエル側も公式には認めませんが、核武装を阻止するためには「あらゆる手段を取る」という姿勢を示唆しています。
パレスチナ問題と中東での勢力争い
イランとイスラエルの対立は、パレスチナ問題とも深く結びついています。イスラエルは1967年以降パレスチナ人居住地(ヨルダン川西岸やガザ)を占領し、入植地を拡大してきました。これに対し、イスラム革命後のイランはパレスチナ人やレバノンのシーア派住民を「抑圧されたイスラム同胞」と位置づけ、表立って支援を表明します。
特にイランは、イスラエルと戦う武装組織(レバノンのヒズボラやパレスチナのハマス)の主要な後援国となりました。その結果、イスラエルはこれら武装勢力との紛争の背後に常にイランの影を見出すようになります。イランは**「抵抗の軸(レジスタンス・フロント)」を自称し、パレスチナやレバノンでの反イスラエル闘争を自国の地域影響力拡大にも利用しました。これに対抗してイスラエルは周辺の親米アラブ諸国との関係改善(近年のUAEやバーレーンとの国交正常化など)を進め、イラン包囲網を築こうとしてきました。
つまりパレスチナ問題は、両国のイデオロギー対立において象徴的な争点であり続け、他国を巻き込む地域覇権争い**の様相も帯びているのです。

主要な出来事タイムライン(~2025年)
長年にわたるイラン・イスラエル間の主な対立・衝突の出来事を、以下に年表形式で整理します。
年代(年月) | 主な出来事・対立エピソード |
1948年 | イスラエル建国。 第一次中東戦争勃発。イラン(当時パフラヴィー朝)はイスラエルを事実上承認し、水面下で協力関係を築く。 |
1979年 | イラン・イスラム革命。 イラン新政権が反イスラエル政策を宣言し、イスラエルと断交。以後、イランは「シオニスト政権打倒」を掲げる。 |
1982年 | レバノン内戦・イスラエル軍進攻。 イラン革命防衛隊(IRGC)がレバノンでシーア派民兵組織ヒズボラの結成を支援。ヒズボラは後にイスラエルの宿敵となる。 |
1983年 | 自爆テロ攻撃。 イランが支援するヒズボラがレバノンの米軍基地やイスラエル軍拠点に対し自爆攻撃を実行(米・仏兵士ら多数死亡)。イスラエル軍は翌年までにレバノンから撤退。 |
1992~94年 | アルゼンチンでユダヤ人施設爆破事件。 ブエノスアイレスのイスラエル大使館(1992年)およびユダヤ人コミュニティ施設(AMIA、1994年)が爆破され、合わせて100人近くが犠牲に。アルゼンチン当局やイスラエルはイランとヒズボラの犯行を指摘(イランは関与否定)。 |
2002年 | イランの秘密核開発が発覚。 反体制組織の暴露により、イランが未申告のウラン濃縮施設を保有していたことが判明。以後、イラン核問題が国際的懸案に。イスラエルは「イランが核兵器を開発している」と非難。 |
2006年 | 第2次レバノン戦争。 イスラエルがヒズボラと34日間にわたり戦闘。ヒズボラはイラン製兵器で善戦し、イスラエル軍を阻止。最終的に停戦し膠着。イランはヒズボラの「勝利」を称賛。 |
2009年 | イラン最高指導者の過激発言。 ハメネイ師が演説でイスラエルを「危険で致命的な癌腫瘍」と呼び、イスラエル消滅を示唆。イスラエルは猛反発。 |
2010年 | サイバー攻撃Stuxnet。 米国とイスラエルが開発したとされるコンピュータ・ウイルス「Stuxnet」により、イランのナタンツ核施設の遠心分離機が破壊。工業インフラへの初の大規模サイバー攻撃として知られる。 ![]() |
2012年 | 核科学者暗殺。 イランの核技術者モスタファ・アフマディ=ロシャン氏がテヘラン市内で爆殺される。他にも複数の核科学者が2010年代に暗殺され、イランは一貫してイスラエルの犯行と非難。 |
2015年 | イラン核合意締結(JCPOA)。 オバマ米政権下、米欧とイランが包括合意し、イランの核開発は一時凍結・後退。イスラエルのネタニヤフ首相は「欠陥だらけの合意」として猛反対。 |
2018年 | 米国が核合意離脱、対イラン強硬へ。 トランプ大統領が一方的にJCPOA離脱を宣言。ネタニヤフ首相は「歴史的な決断だ」と称賛。同年5月、イスラエルはシリア内のイラン軍事拠点を大規模空爆し、イランもゴラン高原のイスラエル軍にロケット弾を発射。以後、シリア領内でイスラエルとイラン勢力の衝突が常態化。 |
2020年1月 | ソレイマニ司令官殺害事件。 米軍がバグダッドでイラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ軍」司令官ガーセム・ソレイマニを無人機攻撃で殺害。イスラエルも事前に情報提供で関与か(公式見解なし)。イランは報復としてイラクの米軍基地へミサイル攻撃(米兵100人以上が脳震盪負傷)。 |
2020年11月 | イラン核計画の父・暗殺。 イラン軍事核計画の中心人物モフセン・ファフリザデ氏がテヘラン近郊で自動遠隔銃により暗殺される。イラン政府はイスラエルの工作と断定し報復を誓う。 |
2021年4月 | ナタンツ核施設で爆発事故。 イラン中部の地下核施設で大規模停電と爆発が発生。イラン当局は「イスラエルの破壊工作によるサイバー攻撃」と非難。同月、イランはウラン濃縮濃度を過去最高の60%まで引き上げ開始(核兵器転用まであと一歩の水準)。 |
2022年 | 「核兵器阻止」米イスラエル共同宣言。 バイデン米大統領とイスラエルのラピド首相がエルサレムで共同宣言に署名し、「イランに核兵器を絶対持たせない」と誓約。バイデン氏は「最終手段としての武力行使も辞さない」と発言し、核開発継続なら軍事オプション行使も示唆。 |
2023年10月 | ハマスの対イスラエル奇襲攻撃。 ガザを統治するパレスチナ武装組織ハマスがイスラエル南部を奇襲し、民間人虐殺・多数誘拐の同時多発テロを実行(イスラエル人約1,200人死亡)。イスラエルはガザへ大規模報復攻撃を開始(2023年ガザ戦争)。イランはハマスを長年支援しており、侵攻後も「パレスチナの抵抗」を称賛して物資・資金支援を続行。 |
2024年4月 | イランとイスラエル、史上初の直接軍事衝突。 4月1日、イスラエルがシリアのイラン大使館敷地内を空爆し、革命防衛隊の高官ら7名を殺害。報復にイランは4月13~14日未明、自国領からイスラエル本土へ数百発規模の弾道ミサイル・ドローン攻撃を敢行(初めて国家対国家での直接攻撃)。イスラエルと米・英・仏・ヨルダンの協力により大半のミサイルは迎撃されたものの、イスラエル国内にも一部着弾し負傷者が出た。数日後の4月19日、イスラエルは報復としてイラン本土の軍事標的を限定空爆。両国間の「奇妙な自制」は崩れ、直接戦闘の火蓋が切られた。 |
2024年7~9月 | イスラエル、宿敵指導者を次々暗殺。 7月31日、長年カタールに逃れていたハマス指導者イスマイル・ハニヤをテヘラン訪問中にイスラエルが空爆し暗殺。9月27日にはレバノンのヒズボラ指導者ハサン・ナスララもイスラエル空爆で殺害される。ヒズボラ創設以来の指導者の死により、中東情勢は緊張の極みに。 |
2024年10月 | ミサイルの応酬と本格戦争状態へ。 ヒズボラとハマスの指導者殺害への報復として、イランは10月1日に2度目のイスラエル本土ミサイル攻撃を実施(初回と合わせ200発超)。イスラエルも10月末、ついに公式にイラン領内への大規模空爆を開始。イラン各地の防空システムやミサイル基地が破壊され、事実上のイラン・イスラエル戦争に突入。 |
2025年6月 | イスラエルのイラン核施設攻撃(「ライジング・ライオン作戦」)。 イスラエルがイラン各地の核関連施設・軍事拠点に対し何波にもわたる大規模空爆を実施。イラン革命防衛隊のホセイン・サラミ司令官や核科学者のフェレイドゥン・アッバシ=ダヴァニら要人が死亡と報じられる。イスラエルは非常事態を宣言してイランの報復に備え、米国も在中東米軍の一部退避を開始。イランはただちにミサイルの集中発射で応戦し、両国間は一触即発の危機に陥っている。 |
※上記年表は主な出来事の抜粋であり、他にもシリア内戦(2010年代)での直接対峙、海上でのタンカー攻撃合戦(2019年前後)、イラン国内でのイスラエル情報機関による破壊工作疑惑(軍事施設の爆発など)など、多数の「影の戦争」イベントが存在します。

両国の主張と国際社会からの見られ方
①イスラエルの主張:安全保障と「自衛」の論理
イスラエルは一貫して「我々は生存のために戦っている」と訴えてきました。ホロコーストを経て建国された歴史もあり、自国の存立が脅かされることに極めて敏感です。イスラエル政府の公式見解では、イランこそが攻撃的であり、自らと同盟国に対するテロや戦争を扇動していると位置づけられます。イランが支援するヒズボラやハマスはイスラエル市民を標的に無差別攻撃を行うテロ組織であり(実際ハマスは自爆テロやロケット弾攻撃で民間人を多数殺害してきました)、その黒幕であるイランを抑止・弱体化させることは「自衛権」の範疇だと主張します。
特にイランの核兵器保有はイスラエル民族の絶滅につながりかねないとの強い危機感があり、外交的努力で止められない場合は軍事力行使も正当化されると考えています。2022年に米イスラエルが共同で「核兵器を持たせないため必要なら力を行使」と誓ったのも、こうしたイスラエル側の執念が背景です。
また、イスラエル側は「我々は何度も和平の手を差し伸べたが、イランや過激派は和平を望まず滅亡を企図している」といった論調をとります。イスラエルは1979年以前のイランとは友好関係にあったことを引き合いに出し、「イスラム体制になってからのイランが過激化したのだ」と説明します。実際、イスラエル国内ではイラン国民と体制を分けて考える声もあり、「問題はイランの強硬な指導部であって、国民ではない」という主張も聞かれます。
いずれにせよイスラエルにとってイランは唯一核兵器で自国を脅かし得る敵対国であり、その軍事力を削ぐことは「攻撃ではなく予防的防衛」であるという論理です。

②イランの主張:反シオニズムと「抵抗」の論理
イラン側は、自らの対イスラエル姿勢を「正当な抵抗」と位置づけます。公式には「我々はユダヤ人に敵対しているのではない。パレスチナを不法占拠し、虐げているシオニスト政権に反対しているのだ」と説明しています。イランにとってイスラエルは、欧米列強が中東に作り出した「侵略的な植民地国家」であり、パレスチナ人への抑圧を止めさせることがイスラム世界の義務であるとします。
そのため、パレスチナやレバノンの「抵抗運動(レジスタンス)」を支援するのは道義的に正当であり、イスラエルがそれを「テロ」と呼ぶのはプロパガンダだと反論します。イラン指導部は「イスラエルがある限り中東に正義と平和は訪れない」と公言し続けており、イスラム諸国に対しても団結してイスラエルに圧力をかけるよう呼びかけています。
宗教的な次元でも、イランのシーア派指導部はエルサレム(イスラム名:聖クドゥス)を「イスラム第三の聖地」と位置づけ、「クドゥスの日」(毎年、ラマダン月最終金曜)には反イスラエル集会を国内外で組織しています。「イスラエルに死を!」「パレスチナ万歳!」といったスローガンはイランの国家行事の一部となっており、反イスラエル闘争が体制の求心力維持にも利用されています。
また、イランは自国の核開発について「イスラエルが核兵器で中東を威嚇している現状で、我々の核技術の平和利用を妨害するのは偽善だ」と批判します。イスラエルは核拡散防止条約(NPT)に加盟せず核兵器を秘密裏に保有している(推定80~100発)と見られています。イランは「二重基準だ。なぜイスラエルの核は許されるのか?」と主張し、イスラエルの核兵器保有こそ地域不安定化の元凶だと訴えます。
さらにイランは、「中東の紛争の元凶はイスラエルと米国の侵略政策であり、我々は防衛している側だ」という姿勢です。シリア内戦でイランがアサド政権を支えヒズボラとともに参戦したことも、「シオニストとテロリストからシリアを守るため」と説明します。イエメンやイラクの親イラン民兵への支援についても、「イスラエルや米帝国主義に対抗するため、地域の声に応えただけ」と正当化します。要するにイランの公式見解では、自分たちは常に被害者側・正義の側であり、イスラエルこそが加害者なのです。

国際社会で語られる「イスラエル=悪者」論の背景
国際世論に目を向けると、イスラエルとイランに対する見方は地域や立場によって大きく異なります。とりわけ「イスラエルが悪者か否か」という評価は、欧米と中東、そしてアジアで温度差があります。
欧米(欧州・北米)の視点
歴史的に欧米諸国(特に米国)はイスラエル寄りの姿勢を取ってきました。ホロコーストの記憶や民主主義国家同士の連帯感もあり、メディア報道でもイスラエルの視点に理解を示す論調が多かったのは事実です。しかし近年、欧米内部でもイスラエル批判の声が高まっています。
例えば2023年10月のガザ紛争では、イスラエル軍の激しい空爆によるパレスチナ民間人犠牲が世界に衝撃を与え、バイデン米大統領ですら「(イスラエルの)無差別爆撃が支持を失わせている」と懸念を表明しましたrusi.org。また南アフリカなどが主導するイスラエルのガザでの行為を「集団虐殺」と訴える国際司法裁判所(ICJ)提訴には、イスラム圏以外の中南米諸国も賛同しています。欧米メディアでも、ニューヨーク・タイムズ紙などがガザの子供犠牲者を大きく報じ、イスラエル軍を厳しく批判する論調が目立ちました。こうした報道姿勢に対し、イスラエル支持派から「欧米メディアは反イスラエルに偏向している」との非難も出ていますjpost.comが、一方で欧米の若い世代を中心にパレスチナへの共感が広がり、イスラエル政府の強硬策に疑問を呈する声が増えているのは事実ですrusi.orgrusi.org。
欧米では依然政府レベルではイスラエル支援が盤石でも、世論面では「イスラエル=加害者」のイメージが以前より強まりつつあります。
中東イスラム圏の視点
中東のアラブ・イスラム諸国では伝統的に**「イスラエル=悪者」という見方が圧倒的です。パレスチナ問題は「西洋植民地主義への抵抗」の象徴とされ、メディアもイスラエルの行為を糾弾する論調が主流です。アルジャジーラをはじめとする中東メディアは、ガザや西岸でのパレスチナ人の被害を克明に報じ、イスラエル軍の攻撃を「残虐な侵略」と表現します。
例えば、直近2025年6月にイスラエルがイラン核施設を攻撃した際、サウジアラビアの有力チャンネルは「イスラエルがイラン施設を爆撃」との中立的見出しを出しましたがeuronews.com、カタールのアルジャジーラは「イスラエルがイランを攻撃」と伝えており、イスラエルを主語にして侵略者であることを強調しています。
中東の親米湾岸国などでは近年イスラエルとの関係改善もありますが、それでも世論レベルでは依然としてパレスチナ支持・イスラエル不信が根強いです。各国政府も国内世論に配慮し、表向きはイスラエルを非難する声明を出すことが多くなっています。「イスラエルは中東の不安定の源」という認識は一般的で、イランが唱える「抵抗軸 vs シオニスト」**の図式にも一定の共感が集まりやすい土壌です。
アジアその他の視点
アジア諸国の見解は一様ではありませんが、例えば中国やロシアはイスラエルに否定的な報道を行う傾向があります。中国外交部は2025年のイスラエル対イラン開戦時も「イスラエルの攻撃は危険な前例だ」と批判しksby.com、国営メディアも米国のダブルスタンダード(イスラエルを擁護し他国を非難すること)を指摘していますrusi.org。世論調査でも、中国では回答者の66%がイスラエルを好ましく思わないとのデータがあります。
インドはイスラエルと関係良好で軍事協力も深いことから一般にはイスラエル寄りですが、それでも若年層ではパレスチナ支持も増えています。イスラム教国のインドネシアやマレーシアでは政府・世論ともにパレスチナ支持が圧倒的で、「イスラエル=悪者」です。
日本においては、政府は伝統的に中立的立場を取りつつも親米路線でイスラエルにも配慮しています。一方、日本メディア(NHKなど)は比較的バランスを取った報道をしますが、一般世論では遠い紛争ということもあり関心は高くありません。ただ最近では日本でもガザでの惨状が報じられ、「イスラエルひどい」という声もSNS中心に散見されます。
まとめると、イスラエルが「悪者」扱いされるのは主にパレスチナでの軍事占領と強硬策に起因します。長年続く占領統治下での人権問題、ガザ封鎖による人道危機、そして度重なる大規模軍事報復による市民犠牲が、国際社会でイスラエル批判を招いてきました。欧米諸国でも自国政府のイスラエル擁護に疑問を呈する声が増えており、将来的にイスラエルが外交的に孤立を深める可能性も指摘されています。一方でイランもまた西側からは「テロ支援国家」と見做され、核開発や過激なレトリックで警戒されています。
結局のところ、どちらが「悪」かは立場次第であり、この対立は単純な勧善懲悪では語れない、多くの国や思惑が交錯する複雑さを孕んでいます。
イラン体制の特徴と代理戦争という戦略
イラン・イスラム共和国の体制は、宗教と政治が融合した独特のものです。その最高意志決定者はシーア派イスラム法学者である「最高指導者」であり(現在はアリ・ハメネイ師)、イスラムの教義に基づく反米反イスラエル路線が体制の正統性の一部を成しています。ホメイニー師以来、イラン革命体制は**「イスラム世界の弱者を守る」**ことを自らの使命と定義し、その文脈でパレスチナやレバノンのシーア派住民への支援を掲げてきました。国内的にも、反イスラエル・反米の旗印は愛国心・団結を喚起する効果があり、経済制裁など困難に直面する国民の不満を外敵へ向けさせるプロパガンダとして機能しています。
そのイランが取ってきた重要な戦略が、**「代理戦争(プロキシ戦争)の活用」**です。
すなわち、自国の正規軍を直接イスラエルと戦わせるのではなく、第三国の武装組織を支援・育成して間接的に敵と戦う手法です。典型例がレバノンのヒズボラで、イランの革命防衛隊は1980年代前半にレバノンへ派兵し、同地のシーア派組織に軍事訓練・資金提供を行ってヒズボラを組織化しました。ヒズボラはイスラエルと直接戦い得る強力なゲリラ軍となり、2006年にはイスラエル国境での紛争で引き分けに持ち込むなど、その存在だけでイスラエルにとって大きな抑止力となっています。
同様に、イランはパレスチナのイスラム組織ハマスやイスラム聖戦(PIJ)にも資金や武器を密かに送り、彼らのロケット弾やドローンの開発を助けてきたとされていますapnews.com。事実、2023年10月のハマスによるイスラエル襲撃作戦についても、イランが事前に関与していた可能性が指摘されました(イラン当局は作戦関与を否定しつつ「道義的支援」を認めました)。さらにイランはイラクやシリアでも多数のシーア派民兵組織を影響下に置き、必要に応じてイスラエルや米軍と対峙させています。例えばシリア内戦では、イランが組織したイラク人・アフガン人のシーア派旅団がイスラエル軍の空爆に晒され、多数の戦死者を出しました。イエメンのフーシ派反政府勢力もイランの支援を受け、近年は紅海経由でイスラエル船舶を攻撃するなど代理的にイスラエルと敵対しています。
この代理戦争戦略は、コストを抑えつつ敵を消耗させ、自国の影響圏を拡大する狙いがあります。イラン自身が直接イスラエルと戦えば国際世論上のリスクも高いですが、代理勢力を使えば「自分たちはあくまで支援しているだけ」という建前が保てます。その半面、代理勢力が暴走したり、コントロールが利かなくなる危険も孕みます。またイスラエル側もこの戦略を熟知しており、イラン本国を直接叩くことで代理網ごと弱体化させようとしてきました(2024~2025年の一連の空爆はその意図が強いと見られますthebulletin.orgthebulletin.org)。
イランの代理戦争戦略は一長一短ですが、少なくとも過去40年にわたりイランが中東各地で影響力を行使しイスラエルと渡り合う原動力となってきました。

アメリカの支援と中東戦略〜なぜ米国はイスラエルを擁護するのか
イスラエルとイランの対立構造を語る上で、米国の存在は欠かせません。米国はイスラエルの創設以来最も強力な後ろ盾であり、近年のイランとの軍事衝突局面でも常にイスラエルを支持・支援してきました。では、なぜアメリカのイスラエル支援はこれほど盤石なのでしょうか?その理由は歴史的・宗教的・戦略的・政治的に多岐にわたりますmeij.or.jp。
第一に歴史的・倫理的な要因があります。第二次大戦後、ホロコーストを経たユダヤ人が建国したイスラエルに対し、米国世論は強い同情と連帯感を持ちました。多くの米国人にとって、**「敵に囲まれながら自由と独立を守る小国イスラエル」**の物語は、自国の理想(自由・自決・不屈の精神)と重なって見えたのです。キリスト教的な文脈でも、聖書の「約束の地」にユダヤ人が帰還したことを「神の摂理」と歓迎する声(キリスト教シオニズム)も根強く、政治指導者もその感情を共有していました。こうした宗教的・文化的下地が、米国の対イスラエル特別視につながっています。
第二に冷戦下の戦略的要因です。米ソ冷戦期、中東ではアラブ諸国の一部がソ連寄りだったのに対し、イスラエルは一貫して米国陣営に立ちました。イスラエルは中東で唯一の民主国家でもあり、米国はソ連影響下に対抗する前哨基地としてイスラエルを位置づけました。
結果として、米国は巨額の軍事・経済援助をイスラエルに提供し続けました。総額3,100億ドル以上(インフレ調整後)の米援助がこれまでイスラエルに注がれ、イスラエルは戦後米国から最も多くの援助を受けた国となっています。現在でも毎年38億ドル規模の対イスラエル軍事援助が予算化されており、2023年のガザ紛争時にも追加で少なくとも125億ドルの軍事支援が承認されています。
さらに米国は**「イスラエルの質的軍事優位(QME)を維持する」**ことを政策として掲げ、他中東諸国への武器輸出を制限する一方でイスラエルには最新兵器を優先供与しています。この原則はリンドン・ジョンソン政権以来守られ、2008年には法律にも明文化されました。つまり米国はイスラエルを中東最強の軍事国家に保つことで、自らの地域戦略上の要石と位置付けているのです。
第三に国内政治要因があります。米国には有力な親イスラエル世論・ロビーが存在します。ユダヤ系アメリカ人は米政界・経済界に影響力を持ち、また福音派キリスト教徒なども宗教的理由でイスラエル支持を掲げます。議会では超党派で親イスラエル姿勢が伝統となっており、中東政策においてイスラエル支援に異議を唱えることは少数派に留まります。
「イスラエルの安全はアメリカの国益」という認識が共有され、大統領選でも各候補が競ってイスラエル支持を表明するほどです。これにより、たとえ国際的にイスラエルへの批判が高まっても、米政府はしばしば国連などで拒否権を行使してイスラエルを擁護します。実際1972年以降、アメリカは国連安保理でイスラエルを非難する決議に少なくとも53回拒否権を発動し、その制裁を阻止してきました。2023年のガザ戦争でも、イスラエル軍の行為が「国際法違反」として非難決議案が提出されましたが、米国がこれをブロックしています。
以上のような複合的理由(歴史的な同情、民主主義という価値観の共有、冷戦・テロとの戦いでの戦略的盟友関係、そして国内政治的な支持基盤)によって、米国のイスラエル支援は極めて強固なのです。結果として、イスラエルは対イラン政策でも常に米国の後ろ盾を得ているのです。イランに対する経済制裁網の構築、国際社会での外交的圧力、さらに軍事面でも諜報協力やミサイル防衛で米国はイスラエルを支え続けます。
例えば、2024年4月のイランからのミサイル攻撃時にも、米英仏が迎撃支援を行い大半のミサイルを撃ち落とした過去があります。アメリカ第5艦隊は常時中東に展開し、イランをけん制しています。こうした米国の中東戦略の一環として、イスラエルとイランの対立は**「米国 vs 反米勢力」**という構図にも重なっています。イラン側から見れば、自分たちは「米国とその手先イスラエル」に戦っているという意識が強く、イスラエル単体だけでなく背後の超大国との闘いという面もあるのです。

核戦争のリスクとシナリオ分析
両国間の対立が軍事衝突に至った今、最も懸念されるのは核戦争へのエスカレーションです。イスラエルは公には認めていないものの中東唯一の核保有国と信じられており、イランも核兵器開発の瀬戸際にいるといわれています。この状況で直接戦闘がさらに激化すれば、最悪のケースとして核兵器の使用や核報復のシナリオも排除できません。
現時点でイランは核弾頭を保有していないとされていますが、濃縮レベルを高めれば数カ月~1年で核兵器を製造できる可能性があります(あるいは既に開発しているとも...)。イスラエルのネタニヤフ首相は以前から「イランが核兵器開発の臨界点に達する前に行動する」と明言しており、2025年6月の核施設攻撃も「今しか止める機会がない」と判断したからだと言われます。もしイランが核兵器を手にすれば、あるいは目前に迫れば、イスラエルがそれに先んじて核攻撃で破壊しようとする恐れも理論上はありえます。また逆に、イランが追い詰められ核開発の断念か体制崩壊の瀬戸際に立たされた場合、最後の手段として核兵器(未完成でもいわゆる「汚い爆弾」的なもの)を使用するリスクもゼロではありません。
さらに、偶発的な核衝突のリスクも指摘されます。例えば、イスラエルがイランの核施設(ブシェール原発や濃縮施設)を爆撃した際、放射能漏れなどの事故が発生すれば、イランは「核攻撃を受けた」と見なして過剰反応する可能性もあります。また、イランが弾道ミサイルでイスラエルの原子炉(ネゲブ砂漠のディモナ核施設)を狙い、それが被弾すれば、核物質の飛散から地域的な大惨事となります。そうした事態は国際社会を巻き込むことになり、米露中など他の核保有国が介入すれば思わぬ核エスカレーションに繋がりかねません。
ただし現在のところ、両国とも核兵器の直接使用は極力回避したいのが本音でしょう。イスラエルは核を「絶対最後の手段(サムソンオプション)」として保持しているとされ、通常戦力で対処できる間は使用しないと見られます。イランも核兵器を持たない以上、即座に核戦争には踏み込めません。むしろ懸念されるのは、エスカレーションの連鎖によって誤解・誤算からの核使用が起こるシナリオです。
例えばイランのミサイル攻撃に対し、イスラエルが指揮官判断で戦術核を使う、あるいはイラン側がイスラエルの核搭載潜水艦を攻撃してしまい報復を招く、といった予期せぬ展開です。2025年6月の時点でも国際社会の指導者たちは「全面戦争は避けよ」と緊急に呼びかけており、中国は「核関連施設への攻撃は危険な前例だ」と非難しましたksby.comksby.com。ロシアも両国に対話を促し、プーチン大統領が仲介を提案するなど動きを見せていますapnews.com。(戦争真っ只中のトップがどの口で?と言いたくなりますが。)
核戦争を避けるための鍵は、外交的なクッションと抑止のバランスです。幸いにも米国もイランも、現時点では直接交戦を望んでいません。米国のトランプ政権は2025年6月の段階で「イスラエルから作戦の事前通告はなかった。関与していない」と距離を置きつつ、水面下では双方に自制を促していると伝えられます。オマーンなど中立国は米イラン間の非公式対話の仲介を続けていますが、6月には核協議再開がキャンセルされる事態にもなりました。緊張を緩和し核戦争リスクを下げるには、イランの核開発凍結とイスラエルの軍事攻撃停止を含む包括的な合意が必要とされています。しかし双方の不信感は極度に強く、短期的な妥協は容易ではありません。
現状では、イスラエル国防相が「ハメネイ師がミサイル攻撃を続けるならテヘランを焼け野原にする」と警告するなど物騒な言葉が飛び交っています。ネタニヤフ首相も「今回の攻撃は序の口だ。今後数日で奴らに思い知らせてやる」と強硬姿勢を崩していません。イラン側も「もし報復すればもっと大規模な反撃をする」と威嚇し、米国にも「イスラエルを支持すれば米軍基地も標的にする」と警告しましたaljazeera.com。このチキンレース的な状況下で、どこか一線を越えれば核の一撃が飛び出す恐れがぬぐえません。
とはいえ、核戦争になれば双方とも破滅的な被害を受けるのは明白です。核兵器は「使えない兵器」とも称され、抑止力として意味を持つ反面、一度使えば国際的孤立と報復で自滅しかねません。イランとイスラエルが理性を保ち、最悪のシナリオを避ける可能性も十分にあります。実際これまで両国は長年直接戦争を避け、ギリギリの抑制を働かせてきました。今後も国際社会の仲介や圧力によって停戦や妥協が成立すれば、核の惨禍は回避できるでしょう。

おわりに
イランとイスラエルの対立は、中東の現代史を語る上で避けて通れない軸となっています。宗教革命と民族国家、イスラム主義とシオニズム、核開発と核抑止。様々な要素が絡み合い、単純な善悪では割り切れない複雑な構図を呈しています。双方にそれぞれの正義と事情があり、互いに相手を「悪」とみなすプロパガンダが展開されてきました。
しかし一方で、数十年に及ぶ敵対の中で累積した不信と憎悪は、地域と世界の平和にとって大きな不安定要因であることも否めません。とりわけ核兵器を巡る争いは、人類全体への脅威となり得ます。国際社会はこの対立を放置せず、対話と外交を通じて暴発を防ぐ責務があります。幸いにも過去にはイラン核合意のような成功例もありました。今後も粘り強い交渉によって、イランの安全保障上の不安を和らげつつイスラエルの生存権も保証する枠組みを模索する必要があるでしょう。
一般の私たちにとっても、この対立から学ぶべきことは多いでしょう。メディア報道の偏りや歴史的背景を正しく理解し、一面的な「悪者探し」に陥ることなく、冷静に事実関係を追うことが重要です。本記事が、複雑なイランとイスラエル関係を読み解く一助となり、平和への関心を深めるきっかけになれば幸いです。
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